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2005.11.06

[書評] 定刻発車

三戸 祐子:定刻発車,新潮社,2005

定刻発車 本書の発行は2005年5月1日となっている。その6日前の4月25日に死者107名を出したJR福知山線列車事故が発生し、しばらくの期間世の中はこのニュースで持ちきりであった。この事故の報道においては、運転手個人の運転ミスであるという視点はむしろ少なく、JR西日本の社風や鉄道システムそのものに批判が浴びせられていたようである。
 この事故を機に日本の鉄道システムに関心を持った人も多かったであろう。実際、事故はなぜ起こったのかの類の本は、雨後の竹の子のごとく出ている。本書は日本の鉄道システムの優秀さを述べているのだが、ダイヤの正確さを保つ技術の1つとして挙げられている「運転手は巧みなブレーキ操作で遅れを取り戻す」あたりの解説は、福知山線列車事故の直後としては神経を逆なでする部分もあると思う。事故の6日後というタイミングは単なる偶然とは言え、良かったのか悪かったのか。
 日本の鉄道は世界一正確であるという。私自身外国の鉄道に何度も乗ったことがあるので、自らの経験としてもかなり正確な部類に入ることは実感している。外国で感じることは、誰も遅れを気にしていないということである。着けばよいと思っている。日本の場合、気にするから正確になったのか、いつもは正確だから遅れると気になるのか、鶏が先か卵が先かの議論であるが、いずれにせよそういう国民と鉄道を持つに到った。この世界に類を見ない正確な鉄道が生まれた歴史的な背景や、それを維持するための仕組みや技術を検証する。
 日本の鉄道が正確であるとか、工業製品が優秀であるとか言った場合にすぐに登場するのが、日本人は勤勉だからとかいったステレオタイプな国民性である。それは一応の説明にはなっているかもしれないが、ではなぜ勤勉なのかという疑問が出てくる。結局いつどこの人間社会も、歴史的な背景から切り離すことはできない。そしてそのような歴史をたどった要因まで突き詰めれば、その土地の地理的・気象的な要因にまで行き着くであろう。本書の検証は、まさに歴史的・地理的な要因にまで掘り下げられる。そして意外かもしれないが、乗客のために正確を追い求めたのではなく、正確でないと成り立たないという運行側の都合による側面が大きいということが見えてくる。
 また本書で強調されるのは、正確な鉄道を維持しようとする鉄道マンのたゆまぬ努力である。完成されたシステムであっても、それを維持するのはまさしく人間の日々の努力なのである。火事で逃げ遅れた人を助ける消防士は英雄に見える。病気の痛みを鎮めてくれる医者は神にも見える。人の窮地を救う彼らには感謝をするが、平常を保つという努力している人々の活躍に対して、我々の感謝は足らないのではないだろうか。
 鉄道に対する利用者(日本人)の注文が厳しいのも事実であり、それがこの世界で最も正確な鉄道を育てたという背景も当然ある。また日本の消費者の商品に対する厳しさが、国際競争力のある企業を育てている。一流を育てるのは第一級の厳しい眼差しであり、政治が三流なのは国民の甘さ以外の何物でもない。☆☆☆☆

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