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2005.04.08

[書評] 吉田茂とその時代

岡崎 久彦:吉田茂とその時代,PHP研究所,2002

吉田茂とその時代 満州事変後から終戦までを描いた前著重光・東郷とその時代は、考えさせられることが多かった。本書はその続編に当たり、1945年8月15日の終戦から1951年9月8日のサンフランシスコ講和条約までの占領時代を描いている。
 前著では「現在生きている人間の価値観だけで歴史は書けない」として、序章を設けて自らの立場を打ち出していた。本書では序章の代わりに「公正な日本近代史を阻むもの」という最終章を設けて、著者の考えの総括を述べている。本書は明治維新以後の日本外交史を描いた一連の著作(全5巻)の最終巻に当たり、むしろこの最終巻の最終章を書きたくて歴史の流れを綴って来たのではないかと感じられる。
 著者は、現在にまで続く戦後の日本人の戦前戦中史観は、本書が描くこの占領時代に作られたとし、この占領が日本人の思想に与えた影響を最終章のみならず随所で指摘している。著者の言う現代日本人の史観とは、自虐的な左翼史観ということであり、特に東京裁判の被告が悪であり、占領軍の力によって現在の憲法ができたという、まとめて言うと戦争に導いた人間及び国家の枠組みは外圧によって排除されたと信じる史観のことである。
 私自身も戦中生まれの両親を持つので、著者の言う戦後の後遺症から抜け切れていない世代ということになるが、私から見ると著者は相当右寄りに感じる。前著ではほとんど気にならなかったが、本書では読んでいてどうかと思う記述も少なくなかった。少なくとも戦後60年という時期の日本人の平均値から見て、右に居ることは著者自身も自覚しているであろう。しかし著者は、戦後100年経過すれば戦後の後遺症から抜け、偏向のない史観が築けるであろうとしている。著者の一連の著作の目的は、この偏向史観のない世代に向けて「歴史の真実」を伝えることにあるので、現代という時代において賛否両論になるのは織り込み済みであろう。むしろ著者は議論が沸き上がることを期待し、いつでも受けて立とうという気構えを持っている。本書が顧みられるか忘れ去られるか、時代の判断を待つしかない。☆☆☆

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